Scroll

当たり前を捉え直し、 暮らしにすっと馴染む掃除機をつくる。

Product 2026. 10. 14

Project

ステーションタイプ
コードレススティック掃除機EC-CR1

Member

  • 岩井優典

    プロダクトデザイナー

  • 平友樹

    デザインスタジオ部長

  • 加藤篤史

    掃除機企画担当

ステーションタイプ コードレススティック掃除機 EC-CR1 とは

掃除機は、吸引仕事率と運転時間と重さで比べられる。カタログにも、価格比較サイトの並び順にも、その数字が出てくる。各社が同じ土俵で技術を磨き上げた結果、その差はお客様に伝わりにくいところまで縮まっている。

EC-CR1は、暮らしのなかにどんな掃除機があればいいかを、デザインの視点で考えるところから始まった。まずデザイナーが目指す姿を描き、その実現方法を技術が考え、企画が製品として成立させていく。開発の起点が、デザインに置かれた。

この記事では、その起点がどこから立ち上がり、どんな判断を経て製品のかたちになったかをたどる。

掃除機という文脈を意識しすぎると、今までと違うものにはならない
— 岩井さん

EC-CR1プロジェクトメンバー
左から加藤さん、岩井さん、平さん。

デザインから、掃除機を考えてほしい

きっかけは、事業部長からデザイン部門への依頼だった。技術的な制約をいったん置き、これからの掃除機をデザインの視点から提案する。

ただ、自由に考えられることと、それが製品になることは別だ。技術の裏付けを待たずに先行で試作を重ねながら、この先どう進んでいくのか、見通しを持てずにいた。

着地がわからない状態で、先が見えない不安はありました

企画を担当した加藤さんは、今回の進め方をこう振り返る。

まずデザインの企画やコンセプトがあり、それを実現するために技術や機能を後から組み上げていく。このような進め方は初めて経験しました。

デザイン部長の平さんは、この依頼をチャンスと捉えた。一方で、これまでにない掃除機をつくり、売ることへの責任も感じていた。

一旦技術を切り離してデザインで考えるというのは、チャンスかなと思っていました

平友樹 さん
デザインスタジオ部長
デザインの方向性に責任を持ち、初期から確認に加わりながら、「使われる場所と人の行動を見る」という手がかりをチームに示した。

掃除機ではなく、暮らしを見る

何を手がかりに考えたのか。岩井さんはこう答えた。

今までなかったもの、今までやりたかったこと。それらを全部ひっくるめてスタートしました

見ていたのは、掃除機そのものより、それが置かれる場所と、使う人のほうだった。平さんが普段からデザイナーたちに伝えているのも、製品だけを見るのではなく、使われる場所や人の行動から考えることだ。

そこを技術で裏付けて商品化するのが、結構シャープらしいなと

「目のつけどころ」という言葉が象徴するように、当たり前になっているものから少し視点をずらしてみる。

では、いまの掃除はどう変わっているのか。根拠は調査だけではなかった。

調査もしたんですけど、一番大きかったのは自分の実感です

学生時代から一人暮らしをしている岩井さんの掃除は、実家で見ていたような、時間をかけて全体をくまなく掃除するものとは違っていた。気になった場所を、気づいたときにさっと掃除する。そんな手軽な掃除の仕方に変わっていた。

平さんも、同じ変化を掃除機という道具の視点から見ていた。キャニスターからスティックへ。掃除にかける時間も、使い方も変わった。さらに、限られた住空間のなかでは、掃除機の置き場所も無視できない。

片付けてしまう掃除機ではなく、生活動線上に置かれ、気になったタイミングでラクに使える掃除機を目指す。目標はそこに定まった。

行き着いたのは、自在ほうきのような操作感

狭い場所でも、自分の身体に合わせて動かせる道具とは何か。探して行き着いたのが、学校の掃除などでも使われてきた自在ほうきだった。

昔から使っている自在ほうきくらいの方が手軽に掃除できて、みんなが記憶している掃除の仕方でもある。そういうものがいいのではないかなと思ったんです

使う人の身体に合わせて、自由に動かせる。誰もが使ったことがあり、身長を選ばず、縦にも横にも扱える。道具はシンプルなものほど生き残る、と平さんは言う。

機械っぽいものじゃなくて、より道具らしい操作感に取り組むべきなんじゃないか

実現する手がかりは、社内にすでにあった。以前に商品化されていた「奥の手ヘッド」の構造が、自在ほうきに近い操作感を生み出すヒントになった。ヘッドをT字からI字へ。本体の軸とヘッドの回転軸を合わせることで、向きを変える際の扱いやすさを実現した。

検討時に作られたモックアップ
実寸の模型や技術試作をつくり、実物の大きさや見え方、操作感を確かめながら形を探った。

目指したのは、家具のような佇まい

生活動線上に置かれるには、どのような佇まいが良いのか。

コンパクトであることは大前提で、最初の提案から考えていた

加藤さんはそう振り返る。ただ、最初に思い描いていたのは、家具の隙間に置ける姿だった。行き着いたのは、そこではない。

家具の隙間に置くというよりも、生活動線上のどこにでも置けるような佇まい。そのほうが、手軽に掃除ができるのではないか

目指す佇まいは、隠すのではなく、どこに置いてもすっと馴染むような姿。
その姿を決めるのは、床を占める広さよりも、立ち上がった本体の厚みだった。

本体の厚みが出てくると、佇まいとしても変わってくるし、生活空間に馴染むものにならない

厚みが少し増すだけで、佇まいは変わってしまう。岩井さんがこだわったのは、そこだった。
加藤さんの見方も、比較のうえの薄さではなかった。

比較して確かに薄いよね、小さいよねではなくて、単体で見ても薄いと思うサイズ感を目指しました

では、どこまでなら薄いと感じるのか。薄いという言葉に、何ミリという基準はない。確かめ方は、数字の外にあった。

家に持って帰って、実際に暮らしの中に置いたらどうだろうかと。僕らはコンセプトを知りすぎているので、何も知らない家族に「これどう?」と聞いていました

試作品ができるたび、それを持ち帰った。置いたままで邪魔にならないか。それが、守るべき薄さの基準だった。

壁に寄せて置いた状態
生活動線の近くに、出したままでいい姿を目指した。

掃除機らしさを変えた、ひとつの造形アイデア

当初の案は、本体が円柱で、ゴミを自動で集めるステーションが四角だった。

繋げる段差ができ、二つの塊として見えてしまうことが、従来の家電的な佇まいを生んでしまっていると考えた。課題として挙がっていたわけではないが、岩井さんはそこが気になっていた。

めちゃめちゃ最初は思いつきだったんですけど

理想の形は何か。机に向かって出るものではなく、普段の生活のなかでも頭の隅で考え続けていたという。その形は、ふとした瞬間に浮かんだ。

この面で切ったらどうか。

スケッチを描き、居室に戻ってすぐに試作した。

段差が消え、ステーションと本体の形が自然につながり、隙間に入れやすいというI字ヘッドの特徴にも合っていた。

さらに、表面には細かな凹凸のあるテクスチャーを加えた。傷を目立ちにくくする機能を持たせながら、家の中に置いたときの見え方も整えていった。

それまで積み上げてきたコンセプトに、この形のアイデアが加わることで色んな事が同時に解決されていくような実感がありました。

本体が円柱のままでは段差が残る。平面を設けたことで、本体とステーションが段差なくつながった。

理想の形を守りながら、製品として成立させる

理想の姿を描くところまでは、デザインでできる。そこから掃除機として成立させるには、吸引力、運転時間、自動ごみ収集、紙パックの収納と、現実の条件が次々に入ってくる。

目指した薄さは、既存の部品を少しずつ小さくして届く水準ではなかった。ステーション側のモーターをなくし、本体側のモーターだけで自動集塵まで行う。マルチ吸引構造と呼ばれるこの構成は、アイデア出しの段階から出ていた。

あるものを無くすというレベルのことをしないと、この薄さは実現できない

ただし、構想が立った時点では、掃除機として当然満たすべき条件が確かめられていなかった。

ゴミはきちんと移動させないといけない。掃除もちゃんとできないといけない。運転時間もちゃんと確保しないといけない

通常であれば技術的な道筋が見えてから構想を立てる。今回はその順序が逆だった。

一つ解けば次の課題が現れ、そのたびに厚みが増す。厚くなれば、目指した姿から離れる。その往復が、何度も繰り返された。

技術的な要件を柔軟に判断して、理想的な掃除機の姿を粘り強く描き続けました

往復を速くしたのは、岩井さんが導入を進めた3Dプリンタだった。それまでは削り出しの予約を取り、試作品が届くまで数日待っていた。導入後は、デザインチームが自分たちで試作をつくれるようになった。

それまでは試作をどんどん作ることはできなかったんですけど、今は思いついたらすぐに形にできます

理想と現実を行き来する回数そのものが変わったことも、今回の製品の実現を後押しした。

岩井優典 さん
プロダクトデザイナー
目指す姿を最初に描き、素早く形にして見せながら、構造やスペックとの取捨選択を判断し続けた。

最初の社内審議で生まれた、目指す形への確信

新しい形に手応えはあっても、社内でどう受け止められるかはわからない。その手応えを初めて確かめられたのが、最初の社内審議だったと、加藤さんは言う。

実際のイメージを見せたときの反応は、僕が今まで携わった中では一番良かったです

本部長からは、ダークグレーのみで進めていたカラー展開に白を加えたほうがいい、この商品を前面に打ち出したほうがいいという後押しが返ってきた。量販店との商談でも、商品に表れたコンセプトが大きな共感を集めた。

平さんは、反対が少なかったことを偶然だとは捉えていない。掃除機には、長く積み上げられてきた形や使い方の前提がある。ハンドルの形、握りの厚み、ノズルの形状。それぞれを個別に議論すれば、変更には多くのハードルがあると考えていた。

だからこそ、細部からではなく、まず全体の姿を見せた。

バーンとシルエットで見せられた瞬間に、これでいける、とみんなが思いました。シルエットを見れば、どこに置かれどの様に使うのかが想像できたので

違いが、ひと目で伝わった。

その後、技術的な課題にぶつかっても、「デザインを変更して性能を取る」ではなく、この姿をどう成立させるかという方向で議論が進んだ。

デザインを妥協する、という発想自体があまりなかった。このデザインコンセプトを実現するために何を残し、何を削るかを考え続けました

最初の審議で得たのは、単に反応が良かったということだけではない。この形を守りながら製品にしていくという認識が、開発のなかで共有された。

加藤篤史 さん
掃除機企画担当
デザインからの提案を受け、コストを含めた開発の実務をまとめながら、量販店への紹介から記者発表までを担った。

当たり前を疑い、新しい価値をつくる

インタビューの最後に、数字だけでは語りきれなくなった領域で新しい価値をつくろうとする人に、一つ伝えるとしたら何かと尋ねた。

平さんから答えた。

いつもの景色を一旦引きで見てみる

家電は生活必需品。何十年も変わっていないように見えて、誰かの気づきの分だけ少しずつ変わっている。使っている人とその空間を観察し、視野を広くすること。視点を変えたところにヒントがある。

加藤さん。

常識であることほど疑ってみる

掃除機はうるさいもの、自動ゴミ収集を付ければ設置面積は大きくなるもの。その当たり前を疑ったとき、世界はどう変わるかという問いが立つ。

最後に岩井さんが答えた。

身の回りにあるものは完成形に見えるけれど、まだ変えられる余地はある

このプロジェクトを経験して変わったことを尋ねたとき、岩井さんはこうも話していた。技術が出してきた設計にデザインが応えるのが当たり前だった。それが、主体的に関わるものに変わった。デザインの外にも目を向けるようになり、必要なスペックも含めて、商品としてどうあるべきかを考えるようになったという。

暮らしと使う人を起点に考えたことで、自在ほうきのように扱える操作感や、出したまま置ける佇まいが生まれた。

これからの掃除機の姿を先に示し、技術と企画とともに試行錯誤を重ねることで、気づいたときにすぐ手を伸ばせる、新しい掃除機のかたちが生まれた。

Recommend

おすすめプロジェクト
SHARP DESIGN SHARP DESIGN