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洗濯機に鋼板を。
あるべき形を描き、暮らしに届く一台をつくる。

Product 2026. 06. 03

Project

コンパクトドラム式洗濯乾燥機
ES-8XS1

Member

  • 川口真那子

    プロダクトデザイナー

  • 原中陽

    デザインチーム マネージャー

  • 吉岡直哉

    洗濯機企画 マネージャー

  • 古本佳慧

    洗濯機企画 担当

コンパクトドラム式洗濯乾燥機 ES-8XS1とは

「小さいドラム式洗濯乾燥機」と聞くと、大型モデルの機能をそのまま小さくしたものを想像するかもしれない。だがES-8XS1の開発は、そう単純な話ではなかった。

ヒートポンプ乾燥方式はユニットが大きく、搭載すれば製品サイズも大きくなる。そのためヒートポンプ搭載のドラム式洗濯乾燥機は大型モデルが中心で、少人数世帯や限られた住環境では選択肢にすら入らなかった。ES-8XS1は、その壁を越えようとした製品だ。

しかも外装の前面には、国内の洗濯機では前例の少ない鋼板を採用している。初めての共業先との連携、重なる制約の中であるべき形を実現していくプロジェクトだった。

最初に、これがいいと思う形を決める。そこからすべてが始まる

— 川口さん

ES-8XS1プロジェクトメンバー
左から吉岡さん、川口さん、原中さん、古本さん。

 

どれも簡単には揃わない。それでも踏み込んだ理由

企画が動き出したとき、真っ先に課題になったのがサイズだった。企画マネージャーの吉岡さんが振り返る。

製品の高さを1m以下に収めるっていうのは絶対条件でした。ヒートポンプユニットって結構大きいので、それが収まるのかが一番心配でした

ヒートポンプユニットは構造が大きく、1m以下に収まるかどうかは開始時点で見通しが立っていなかった。さらに少人数世帯に届く価格に抑える必要があること、コンパクトなドラム式洗濯乾燥機は生活空間の近くに置かれるため、ユーザーにとって暮らしに溶け込む外観も欠かせなかった。

条件は厳しい。だがヒーター式からヒートポンプ式への移行が進む市場の中で、コンパクト設計に配慮しながらもヒートポンプを搭載させた製品の発売が急務だった。デザイナーの川口さんは、企画を聞いたときこう感じたという。

ヒートポンプの小型向けを出すって聞いた時に、市場にすごく合いそうだなと思った

川口さんだけでなく、吉岡さんも原中さんも同じ感触を持っていた。プロジェクトはその判断から動き出した。

 

吉岡直哉 さん
洗濯機企画 マネージャー
市場動向とユーザーニーズをもとに企画を立ち上げ、初めての素材・初めての共業先という未知の領域でプロジェクトを推進した。

 

樹脂の限界。鋼板を選ぶという決断

国内向け洗濯機の外装には、長らく樹脂が使われてきた。成形しやすくコストも安い。だが川口さんは、その前提にプロジェクト以前から疑問を感じていた。

洗濯機って樹脂が当たり前なんですけど、これだと時代に求められる質感に対応するのが難しいなと思っていました

家電の外観にはマットで落ち着いた質感が求められるようになった。だが洗濯機に一般的に使用される樹脂では高品位な質感の実現が難しく、濃い色にすると成形の痕が目立つ。しかも金型は大型で高額なため10年単位で使い続ける前提があり、途中で質感を変えることもできない。川口さんは企画が立ち上がった時点で、鋼板で提案すると決めていた。

最初から鋼板の方向で提案しようと思っていました

川口さんはそう話す。鋼板であれば質感の自由度は格段に上がる。ただし国内向け洗濯機で鋼板を外装、特に前面にも使った前例は少なく、企画側が不安を感じるのは当然だった。企画担当の古本さんもこう振り返る。

初めての材質だったので、不安もありました。鋼板にするメリットが本当にあるのかとも思っていました

不安は当然だった。だが川口さんの判断は揺らがなかった。問題は、その鋼板をどこでどう作るかだった。

川口真那子 さん
プロダクトデザイナー
外観のあるべき形を最初に描き、技術や共業先との折衝を重ねながら、量産として形にできる形状を導いた。

 

鋼板のサンプルを検討するデザインチーム
色、質感、成形性——どの鋼板で進めるかを見極めるところからスタートした。

 

共業先との連携。鋼板とコストを同時に解く

共業先を探す中で見つかったのが、鋼板加工に長けた会社だった。吉岡さんが振り返る。

鋼板の扱いに長けている会社だった。自社にはないノウハウがありました

共業先が持っていたのは、鋼板加工の知見と独自の調達網だ。鋼板の採用とコストの問題が、この連携で同時に解決に向かった。さらに共業先が「一回やってみる」と手を動かしてくれる姿勢が、外観の可能性を広げたと川口さんは話す。
しかし、複雑な形状への初めての鋼板の採用。完成度が読めない中で、一次試作が上がってきた。吉岡さんが、最も印象に残った瞬間として挙げた場面だ。

一次試作を見た時に、思ったより完成度が高かった。これやったらいけるなと思いました

製品化までまだ課題は残っていたものの、鋼板を採用できるという手応えが、チーム全体に広がった。

上面板。デザインと技術が正面からぶつかった場所

鋼板の採用とは別に、最大の壁になったのが上面板だった。洗濯機の天面にあたるパーツで、ユーザーが真っ先に手を触れ、目にする場所だ。上面板には、耐薬品などの理由で比較的やわらかい樹脂を使わざるを得ない。しかし、川口さんが目指していたのは、生活空間になじむ、家具のようなたたずまい。それには薄さが必要だった。

生活空間に馴染むように、一枚板のように見せたいんです。でも薄くするとゆがみがでやすくなってしまう

上面板には、やわらかい樹脂を使用するため、成型時にゆがみが出てしまうことがある。量産時にそういった懸念がある以上、製品としては許容できない。その問題を解消するため、技術側は厚さの確保を求めた。厚くすれば強度が増し、形状が安定する。

安定した品質のためには、厚くしたい

しかし、厚くすれば本来目指していたはずの家具のようなたたずまいからは離れてしまう。技術の判断にもデザインの判断にも、それぞれ根拠がある。どちらかが間違っているわけではないからこそ、この問題は簡単には決着しなかった。

形にすることで、チームを動かす

上面板の厚みをどこに設定するか。図面上の検討だけでは答えが出なかった。川口さんはこう話す。

作らないと分からないんです。でも簡単には試せない

図面上の議論は平行線をたどった。机上の検討だけでは前に進めない。
そこで、川口さんはじめデザインチームは、上面板だけで厚さの異なる板を何枚もつくった。通常は数パターンで済むところを、このプロジェクトではその数を大きく超えた。議論ではなく手を動かすことで答えを出す方法を選んだのだ。

厚さ違いのサンプルを本当に大量に作りました。普通よりかなり多かったと思います

一枚ずつ確かめるたびに、どの厚みなら目指した家具のようなたたずまいを保てるかの境界線が見えてきた。デザイナーたちがそこまで手を動かす、その熱量が、技術者たちにも伝わった。デザインがギリギリを攻めるなら、技術も応えよう——そういう空気がチームに生まれていった。
同時に、仕様の細部も詰められていた。企画担当の古本さんはこう話す。

細かいところをちゃんと確認していくことが大事だと思っています

派手な判断ではない。だが仕様を一つずつ確認し、詰めていく作業が最終的な品質をつくる。

ES-8XS1 上面板
1枚の板のようにすっきりと見せるために、厚みのギリギリを攻めた部品。

 

古本佳慧 さん
洗濯機企画 担当
仕様検討から具体的な操作仕様の確認まで、製品の細部を一つずつ詰めていった。

 

守るべきラインを、どう実現するか

制約が多いプロジェクトでは、すべてを理想通りにはできない。どこかで線を引く必要がある。川口さんはプロジェクトを振り返り、その線引きの基準は明確だったと話した。

最初にこれが一番いいと思うものを決める。途中で、これだけは守らないといけないっていうラインを決める

守るべきラインは、ユーザーがこの製品を暮らしの中で目にしたとき、いいと思えるかどうか。その基準があるから、技術面やコストなどの条件に対し的確に判断をすることができた。デザインチームのマネージャーである原中さんは、その姿勢をこう振り返る。

できないと言われても、いやできるだろうって考える

技術から難しいと言われても、別のアプローチを探して一つずつ壁を越えていった。原中さん自身も、川口さんが攻めた形状を品質として着地させるために、技術との折衝を重ねた。デザインが方向を示し、チーム全体がそこに向かう——このプロジェクトはその繰り返しで前に進んだ。

原中陽 さん
デザインチーム マネージャー
デザインの完成度に責任を持ち、川口さんが攻めた形状を品質として形にするための折衝を支えた。

 

すべてを形にした先に

インタビューの最後に、制約の多いプロジェクトに向き合う人に一つ伝えるとしたら何かと尋ねた。
川口さんは即答した。

コミュニケーションです。直接伝えに行くこと

共業先にも技術にも、川口さんは足を運んで話していた。ニュアンスは対面でなければ伝わらないことがある。
古本さん。

川口さんのそういった姿勢が、共業先のモチベーションにもつながっていたと思います

吉岡さん。

ものづくりは1人ではできない。お互いを尊敬し合うこと

作るのも販売するのも、1人では無理。目標が一致しているからこそ、難しいことに踏み込めた。
原中さん。

これだけは守るっていう線引きが重要

条件が増えるほど優先順位は見えにくくなる。その中で、何を守るかを決めたことが全体の質を引き上げた。

 

鋼板の採用は、コンパクトさや外観の質感だけでなく、構造のシンプル化やプラスチック使用量の低減にもつながった。あるべき姿を描き、膨大な対話と試作を重ねた先に、置き場所が確保できずドラム式洗濯乾燥機を選べなかったかもしれない人々の、暮らしに届く一台が生まれた。

 

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