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社会に出し、対話して、価値の輪郭を探る。

Communication, UX, Product 2026. 06. 01

Project

todokuto(トドクト)
サニタリープロダクトディスペンサー

Member

  • 寧静

    プロジェクトリーダー/UXデザイナー

  • 山本真梨菜

    プロジェクト推進

  • 江尻紗耶未

    プロダクトデザイナー

  • 小野寺夏海

    UXUIデザイナー

todokutoとは

todokuto(トドクト)は、学校や市役所、公民館といった公共施設や企業の職場などに設置され、利用者が必要なときに生理用品を受け取れるプロダクトだ。届け先は利用者だけではない。設置を決める人、補充する人、導入を推進する人——それぞれの立場に課題があり、設計はその全体に向いている。しかし、このプロジェクトの本質は、単純にプロダクトをつくったことにあるのではない。社会の中にある課題と、それを取り巻くすべての人々の想いを届けること——todokutoという名前には、その意志が込められている。

言語化されていなかった課題をどう形にするか。デザイナーはどこまで意思決定に関わるのか。このプロジェクトは、個人の違和感や気づきから始まり、行政との偶然の接点を経て、社会とのフィードバックを繰り返しながら何度もつくり直された。製品が完成する前に、価値の輪郭が先に現れていく。ニーズが明確になる前に、形にしてみる。todokutoは、その試みの記録でもある。

確信は、今もない

— 寧さん

「todokuto」プロジェクトメンバー
左から小野寺さん、江尻さん、寧さん、山本さん。

 

それはまだ「ニーズ」ではなかった

プロジェクトリーダーの寧さんに、この取り組みが生まれたきっかけを尋ねると、意外な言葉が返ってきた。

自分自身がすごく悩んでいたというより、当たり前として処理されてきたことが、本当に当たり前なのかっていうのをすごく考えていました

女性の健康に関するプロダクト自体は、すでに数多く存在していた。しかし、生理などの女性特有の課題は「個人的なこと」「人に言いづらいこと」として捉えられ、日常の困りごとは、社会全体の課題として整理されることなく、多くの場合、個人が自分でなんとかするものとされてきた。寧さんが感じていたのは、解決すべき「ニーズ」というより、まだ言語化されていない違和感だった。

最初に描いたのは、自宅で生理用品を管理するための個人向けプロダクトだった。

 

寧静 さん
UXデザイナーとしてのスキルを活かし、todokutoのプロジェクトリーダーに。
言語化されていなかった違和感を手がかりに、プロジェクトの価値観と方向性を設計した。

 

一本の電話が、構想を社会へ接続した

転機は、シャープの外側からやってきた。

シャープがフェムテックに取り組んでいる記事を見て、浜松市さんが連絡をくださったんです。電話でいきなり、生理用品のディスペンサーを作れないかって

営業ではなかった。自治体からの問い合わせだった。

最初は「パブリックトイレ向けに生理用品のディスペンサーの開発はやっていません」と答えたという。

それでも、なぜ自治体がそれを必要としているのかを聞きに行くことにした。

浜松市の現場で見えてきたのは、個人の不便さではなく、施設としての困りごとだった。
学校や公共施設で生理用品をどう配布するか。誰が管理するのか。どう周知するのか。それは個人の問題であると同時に、公共空間の運用に関わる問題でもあった。

価値はすごく感じていた。でもビジネスになるかどうかは、今も確信がないんですよ。

社会的な意義だけでは仕事にはならない。ビジネスとして成立しなければ、単なる自己満足になる。市場の動向、政策、補助金、自治体の取り組み。さまざまな情報を調べながら、確信ではなく兆しを手がかりに進んでいた。
実証実験が始まると、浜松市以外からも企業や公共施設、大学などから声がかかった。いずれもシャープが営業したのではなく、同じ課題を抱えていた組織が自ら手を挙げた。
企画担当の山本さんは、後からこのプロセスを振り返ってこう語る。

浜松市だけじゃなくて、同じ悩みを持っている施設が全国各地にあるんじゃないかと思いました。

個人の違和感が、社会の課題へと接続されていった。

山本真梨菜 さん
寧さんとともにプロジェクトを推進。浜松市をはじめとする実証実験先との対話や利用者アンケートを通じて、現場の声をプロジェクトに反映させた。

BtoCからBtoBへ。変わったのは販路ではなく設計思想

寧さんは、ある誤解をはっきり否定する。

BtoCがうまくいかなかったからBtoBに切り替えたわけではないんです

もともとフェムテックチームは、自宅で生理用品を管理・収納するための個人向けプロダクトを構想していた。だがBtoCとしての開発が形になる前に、浜松市との接点が生まれ、公共施設向けのディスペンサーとして先にそちらを進めることになった。
ただし転換は小さくなかった。使う人が変わった。買う人が変わった。運用する人が変わった。家庭での個人利用を想定していた設計は、公共施設の運用にはそのまま通用しない。

ニーズも全然違うし、使う人も違うし、買う人も違う。構造もデザインも、ほぼゼロから考え直しました

BtoBへの転換は販路の変更ではなく、価値をどう検証するかという設計思想の転換だった。

対話装置としてのプロトタイプを社会に出すという判断

このプロジェクトには多くの当事者がいる。利用者だけではない。プロダクトを設置する人、生理用品を補充する人、施設内でこの取り組みを推進する担当者。それぞれの声を早く拾う必要があった。
プロトタイプの仕上がりは完璧とは言えなかった。色味は安定せず、歪みもある。デザイナーとしては、その状態で送り出すのは心苦しかったという。
それでも外に出した。完成度を上げてから出すのではなく、出すことで完成度を上げていく。プロトタイプは試作品ではなく、社会との対話を始めるための装置だった。
プロダクトデザイナーの江尻さんはこう話す。

プロトタイプとして一旦社会に出せることについては、すごくポジティブにとらえていました。本当はすべての商品でこういうことができたらいいのにと思うくらいです

UXUIデザイナーの小野寺さんも同じ印象を持っていた。

シャープの商品って、完成形に近いものを外に出すイメージがあったんです。でもプロトタイプの段階で外に出してテストすることができるんだ、と驚きました

 

小野寺夏海 さん
UXUIデザイナー。
ネーミングや情報設計、Webなどのコミュニケーションデザインを担当し、プロジェクトの価値観を言葉とビジュアルに落とし込んだ。

 

社会に出して初めて想定が崩れた

実証実験が始まると、想定していなかったことが次々に起きた。

想定していた補充動線は、現場では成立しなかった

清掃スタッフが生理用品の補充を担当する施設では、80代のスタッフが作業することもあった。当初の構造では、鍵を差し込み、内部の部材を外してから補充する必要があった。設計した側にとっては「簡単」な操作だったが、現場ではそうではなかった。

自分の概念と全然違うところがたくさんありました

最終的に構造は見直され、鍵を差したあと、そのまま扉が開くシンプルな仕組みに変更された。

公共空間では、持ち去りが設計条件になる

想像していた以上に生理用品の持ち去りが多かった。壊して取り出すケースもあった。窓から中身が見えると、在庫が多いことが分かってしまう。

想像していた以上に持ち去りが多かったんです

議論の末、窓はなくなった。1枚ずつしか出てこないシャッター構造に変更された。

伝え方の正解は、現場が知っていた

盗難防止の掲示についても、想定外のことが起きた。デザインチームは掲示用のメッセージ案を用意していた。しかし、それとは別に盗難防止のために強い注意文を掲載するなど、独自の掲示を行なっている施設もあった。

その書き方だと、少し直接的すぎるかもしれません

施設によって掲示場所も違った。本体に貼るところもあれば、扉に貼るところもある。
伝え方の正解は、現場が知っていた。

実証実験で使用された初期プロトタイプ(右側の製品)
不完全な状態のまま社会に出し、現場のフィードバックをもとに改良が重ねられた。

 

 

実証実験を通じて改良されたモデル
補充のしやすさや持ち去り対策など、現場からのフィードバックが構造に反映されている。

デザイナーが決めていたのは、形ではなく価値観だった

当事者それぞれの心理を考えながら、生理用品配布の価値観を社会に押し広げていく役割を明確にしたかった

寧さんは、このプロジェクトをそう振り返る。
利用する人だけではない。設置を決める人がいる。日々補充を担当する人がいる。取り組みを進める担当者がいる。
シャープは、その中の一つの当事者にすぎない。
コンセプト、ネーミング、グラフィック、プロダクト。すべてをその価値観に合わせて設計した。

江尻紗耶未 さん
プロダクトデザイナー。
公共空間で使われることを前提に、補充のしやすさや盗難対策といった現場の条件を踏まえながら外観設計を担当した。

 

届けたかったのは、製品ではなく想いだった

「todokuto」という名前にも、その思想が込められている。
SHARPが主役ではない。施設の想いを利用者に届ける媒介になる。
ネーミングは、施設の方の想いを運ぶモチーフから出発した。言葉を重ね、組み合わせていく中で、商標の問題で使えない案が出たり、海外では別の意味になってしまうことが分かったりと、制約に何度もぶつかった。その都度立ち戻りながら、今の名前に落ち着いた。

ディスペンサーはただ配布する箱にもなり得る。でも取り組んでいる人たちの想いが一緒に広がっていくきっかけになればと考えました

製品の名前は、施設が利用者へ届けたい想いの名前でもあった。

 

優しさを形にする

外観デザインで江尻さんが意識したのは、「物々しくしないこと」だった。

四角いシンプルな形状ですが、角に丸みをつけたり、取り出し口周りの面に少し変化をつけたりして、柔らかさを感じる造形にしています

内部構造は複雑だ。盗難対策、補充のしやすさ、収納効率。相反する条件を同時に満たさなければならない。
それでも外観は、その複雑さを感じさせないものにした。公共空間の中で、人の近くに自然に置かれているもの。寧さんが掲げた「優しさ」というコンセプトが、プロダクトの輪郭に落とし込まれた。

 

todokutoディスペンサー
「物々しくしない」というコンセプトのもと、公共空間でも自然に置かれる柔らかなデザインが採用されている。

 

曖昧なテーマに向き合うために

インタビューの最後に、これから曖昧なテーマに向き合う人に一つ伝えるとしたら何かと尋ねた。
寧さんは即答した。

しっかり話を聞いて、やってみようぜ

山本さん。

言語化できるように、時間をかけてもいいから深掘りしていくこと

小野寺さん。

一緒に取り組む仲間を信じながら、自分にできることをまずやる

江尻さん。

納得したものをしっかり出す。行ったり来たりしながらやり切る

寧さんの回答では、話を聞く相手は誰かと問うと「クライアントや、世の中の声です」と返ってきた。現場で何が起きているのか。何に困っているのか。それを聞くことがすべての起点になる。
はっきりしないテーマだからこそ、掘り下げた先に気づくことが、きっとある。

 

todokutoはまだ完成していない。ビジネスモデルも模索中だ。
それでも、話を聞き、出してみて、壊れて、直して、また出す。その反復の中で、価値の輪郭が少しずつ見えてくる。
確信があるから始めるのではない。確信を探しながら進んでいく。
todokutoは、そういうプロジェクトだ。

 

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