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徹底したコンパクト設計の
A4複合機をつくる。

UX, Product 2026. 06. 02

Project

A4カラー複合機
BP-C131WD

Member

  • 筒井喬之

    プロダクトデザイナー

  • 加瀬野篤

    デザインチーム リーダー

  • 安田健一

    UXUIデザイナー

  • 田口典明

    プロジェクトマネージャー

A4カラー複合機BP-C131WDとは

A4カラー複合機BP-C131WDは、ローエンド市場向けにシャープが初めて自社開発したA4コンパクト複合機だ。

より人に近い位置でコピーやプリンターを使用するシーンが増えている中で、それに対応した自社開発のA4機が、シャープの複合機ラインナップには存在していなかった。A4機がなければ入札の選択肢にすら入れない。とりわけ北米市場では、販売拠点から長年にわたって自社開発を求める声が上がっていた。

コンパクトなA4複合機市場は競合が多く、すでに成熟した領域だ。その中で本プロジェクトは、市場で勝てる徹底したコンパクト設計を目標に掲げた。目標は明確だったが、従来の設計思想では実現できない。前提そのものを組み替える必要があった。これは、その過程で積み重ねられた判断の記録である。プロダクトデザインを担当する筒井さんは、この目標をこう振り返る。

非常に気持ちが上がりました。1番を目指すということですから。

— 筒井さん

 

 

A4カラー複合機BP-C131WDプロジェクトメンバー
左から安田さん、田口さん、筒井さん、加瀬野さん。

 

出発点

目標は明確だったが、手段は確立されていなかった。プロジェクトマネージャーの田口さんは、開発の背景をこう語る。

A4のローエンド帯がずっと求められていました

しかし従来のシャープ複合機開発は、上位機種をベースに機能を落として下位モデルを派生させる方法をとっていた。上位の構造を引き継ぐ以上、サイズもコストも一定以下にはならない。

従来の作り方では大きく、高くなる。このままでは戦えないという認識があった。

競合はプリンターメーカーだった。単機能から機能を足し上げる設計は構造が軽く、コストも低い。出発点が根本的に異なる。

同じ設計思想のままでは、この市場には届かない。

田口典明 さん
プロジェクトマネージャー
筐体フレームのメカ設計を担いながらプロジェクト全体を推進。過去のA4機参入の経緯を踏まえ、構造的な判断を支えた。

 

前提を組み替える

当初の計画では、上位機種とエンジンを共通化してA4機を仕立てる方針だった。しかし、この前提ではサイズの削減に限界があった。そこで、プロジェクトはエンジン方式そのものを見直す判断を下した。共通化をやめ、専用の小型エンジンを新たに設計する。開発効率を手放す判断だった。筒井さんはこの転換をこう振り返る。

エンジン方式を大きく見直しました。本当に小さくできる構造をつくろうという方針に変わったんです。

デザインチーム リーダーの加瀬野さんにとって、この方針転換の衝撃は大きかった。

方式をここまで変えてもう一度開発し直すと聞いた時、デザイン側としてはかなりのインパクトでした。

エンジンの見直しに伴い、排紙の方向も変更された。
従来のシャープ複合機は紙が横方向に排出される構造で、前面と側面をL字型に空ける必要があった。排紙方向を前面に変更することで、デッドスペースを内部レイアウトに転用できるようになった。田口さんはこう語る。

排紙方向を含めて変えていくという判断をして、このサイズが実現できた。

エンジンの見直しとともに排紙方向も変更し、小型化を実現。

 

しかしこの変更は、運用全体に影響を及ぼした。
内部のユニットの向きが90°変わり、消耗品は右側から取り出す構造になった。
社内には、反対や不安の声もあった。田口さんは当時の反応をこう振り返る。

向きが違うというだけで、マシンの置き方、消耗品の交換、紙詰まりの処理、全部変わる。受け入れられるんですかと。

一つひとつ、具体的な理由を伝えていった。

小さくて軽いがゆえにハンドリングが楽だから、くるっと回転させて交換してもらえばいい。そのために、本体のゴム足素材を見直し、グリップ力に加え回転もしやすいフェルト材に切り替えた。そういう話を販売側にも海外のメンバーにも説明しながら、少しずつ受け入れていってもらった。

筒井喬之 さん
プロダクトデザイナー
本体の骨格から排紙口周辺の形状まで、構造とアクセス性の両立を技術者と共に詰めた。

 

合意をつくるプロセス

前提を組み替えるたびに、関係者の理解を得る必要があった。このプロジェクトには数百名が関わっていた。全員が同じ前提で動いているわけではない。加瀬野さんはデザインの役割をこう語る。

デザインとしてはずっと、視覚的なところを先行して手をつけながら、みんなの目標をつくってきた。今回もその動きは同じでした。

モックアップは合意形成の手段だった。田口さんはその効果を実感していた。

人はすぐに忘れてしまう。画面だけで説明しても伝わりきらない。でも、モックアップを持っていくと、直感的な意見が一気に出てくる。

この姿勢はUIの設計にも通じていた。安田さんはこう語る。

叩き台を出して、繰り返し検証して精度を上げていく。そうした進め方が、最初から成立していました。

モックアップは、合意を可視化する装置だった。

モックアップを使用し、検討している様子

加瀬野篤 さん
デザインチーム リーダー
デザイン側の全体推進を担い、構造の変更に伴うプロダクトの方向性を技術者と共に調整した。

 

制約の中で設計する

本体の小型化は、操作パネルのUIにも直接的な制約をもたらした。画面は10.1インチから4インチへ。従来の構成は、そのままでは収まらない。
ただし、上位機種と同じシリーズを使うユーザーが操作に迷わないよう、UIの基本構造は維持する必要があった。必要だったのは情報の削減ではなく、一貫性を保ちながら4インチで機能する配置への再構成だった。
安田さんはこの作業の難しさをこう語る。

本当に必要なものを見極めて再構成する作業には、相応の時間がかかりました。

 

10.1インチの画面構成を前提とした設計を、4インチで成立する構造に組み替えた

 

安田健一 さん
UXUIデザイナー
4インチという制約の中で、上位機種との操作の一貫性を維持しながら、画面構成・ボタン設計を再構成した。

 

デザインの関与はUIや外装にとどまらなかった。エンジン構造の変更が決まった段階から、操作パネルの位置、ユニットの配置、排紙口の形状まで、技術者と共に骨格を設計した。筒井さんにとっても初めての経験だった。

最初の骨格を考える部分から関わったのは、自分としても初めてでした。

デザインは、技術的な制約をユーザーが触れるかたちに変換し、設計の議論を前に進めた。

製品として成立させる

小型化を実現しても、市場の価格帯に合わなければ製品にはならない。
生産拠点をタイに移し現地調達でコストを削減し、部品点数も5点構成を1点に統合するなど見直しを積み上げた。筐体にはリサイクルプラスチックを50%以上使用した。再生材はコストが上がる。それでも環境配慮を優先する判断だった。
構造の見直しを支えたのは、こうした地道な積み上げだった。シャープの複合機は継続的にデザイン賞を受賞してきた。筒井さんは

この製品は外せないというプレッシャーがあった

と振り返る。その成果は、グッドデザイン賞とiFデザイン賞として評価された。

次々と現れる課題を、ポジティブに捉える

制約が多く、目標も高いプロジェクトに向き合う中で、今回の経験から言えることがあるとしたら何かと尋ねた。
筒井さんはこう答えた。

制約をポジティブにデザインへ変換する。悲観的にならずに取り組むということは、常に意識していました

試行錯誤を重ね、課題が次々に現れる中で、制約を形に変えていく。骨格から関わったデザイナーとして、設計の方向をつくり続けた。
田口さん。

まずやってみる。断らずに、まず受ける

世界最小の設置面積、というチャレンジも、まずはやってみるという姿勢からスタートしている。
加瀬野さん。

数百名が関わるプロジェクトの中でさまざまな意見を取り入れたことが新しい視点につながった

安田さん。

何度も繰り返し形にして検証することで、前に進めることができた

 

従来の設計では成立しない状況に対して、どこまで前提を見直し、臆せずチャレンジしていくことができるか。困難なことにもポジティブに向き合い続けることで、シャープのビジネス領域を広げ、その先の働く人々の選択肢を豊かにする製品が生まれた。

 

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