シャープデザインのまなざし展|デザイナーの“まなざし”を伝えることで生まれた、発見と共感

デザインノート 2026.09.28

2026年8月に開催した「シャープデザインのまなざし展」。洗濯機、テレビ、ドライヤー、トースター、掃除機を題材に、完成した製品だけでは気付きにくいデザイナーの視点や思考を紹介しました。会場では、しゃがみ込んだり、覗き込んだり、体験しながら製品と触れ合う来場者の姿が。今回は、展示に参加した6名のデザイナーに、展示に込めた思いと、来場者の反応から見えてきたことを聞きました。


写真左上から時計回りに

岩井 優典 Yusuke Iwai
プロダクトデザイナー/ドライヤー・掃除機
入社当初はドライヤーのプロダクトデザインを担当。その後、掃除機のデザイン担当に。構造や技術設計に踏み込んでデザイン開発に関わっている。

川口 真那子 Manako Kawaguchi
プロダクトデザイナー/洗濯機
空調、理美容、掃除機など多様な生活家電を担当。現在は主に洗濯機のプロダクトデザインを行いながら、掃除機のプロモーションに関わっている。

五味 洋 Hiroshi Gomi
プロダクトデザイナー/テレビ
ブラウン管テレビの時代から、テレビのプロダクトデザイン一筋。デザインチームのマネジメントに加え、近年は事業部と連携しプロモーション領域にも携わる。

大野 和樹 Kazuki Ohno
プロダクトデザイナー/トースター
入社以来、キッチン家電領域を担当。トースター、オーブンレンジ、自動調理鍋などのプロダクトデザインに加え、記者発表やプロモーションの場づくりも担当する。

荒木 藍 Ai Araki
コミュニケーションデザイナー/展示デザイン
シャープブランドのイメージ向上に関わるコミュニケーションデザインを担当。企業広告、商品ブランド支援、SNSを通じたブランド発信などに携わる。

吉川 伶 Rei Kikkawa
コミュニケーションデザイナー/展示デザイン
入社一年目。新人研修と並行してプロジェクトに参加し、シャープらしさやシャープデザインへの理解を深めながら展示づくりに関わる。

展示発案デザイナーのインタビュー記事はこちら
シャープデザインのまなざし展|一人のデザイナーの課題意識が生んだ発信の場

デザイナーの視点を、社会にひらく機会として

展示の話を聞いたとき、どのように感じましたか

大野:インハウスデザイナーがデザインを考えている時の視点を来場者に伝えるというアイデアが新鮮でした。自分もそういう展示なら見に行きたいと思いましたし、どんな場になるのかワクワクしました。

岩井:以前から、デザインで考えていることや仕事の裏側について発信する機会がないなぁと思っていました。店頭では伝わりきらない工夫やこだわりも多いので、発信できるとてもいい機会だと思いました。

川口: 最初に話を聞いたときはまだ具体的な内容が見えず、前例もないので、率直にどうなるか不安でした。ですが、準備を進めていくうちに、発案者の古井さんの熱意もあり、何を伝える場なのか少しずつ見えてきました。

荒木:コミュニケーションデザイン業務で、社内の開発者と話す機会が多く、もっと伝えたい、この話を聞いたら買いたくなると思うような魅力的な話をたくさん聞いていたので、ようやく社外に伝える機会が来たと嬉しくなりました。来場者が製品を見る前後で見方が変わるような、ただ情報を並べるだけではない体験にできたらいいなと思いました。

 

吉川さんは、入社してすぐこのプロジェクトに参加されましたが、どんなモチベーションでしたか

吉川:実は入社前から、シャープはデザインに関する展示が少ないと感じていました。なので企画資料を見たときに、家電のデザイナーはこんなにいろいろ考えているんだと驚きましたし、古井さんの熱量にも動かされました。開催実現まで関わりたいと強く思い、参加したいです!と手を上げました。

 

五味さんは、発案者の古井さんの直属の上司ということで、どう感じていましたか

五味:最初に相談を受けたときは、やったことがないので難しそうだと思う一方で、面白そうだとも感じました。本人に熱量があったので、「やってみようか。応援するから」と社内での提案を後押ししました。テレビのデザインをしていて、こだわったポイントがなかなかユーザーに伝わらないと実感していたので、「これはチャンスだ、これまでと違う視点で見てもらえるかもしれない。」と期待感もありました。

完成品だけでは見えない、形になるまでの思考の過程

各製品の展示で、一番伝えたかったことは何ですか

岩井:私はドライヤーと掃除機のデザインを担当しています。ドライヤーでは、技術的な特長を見せたい売り手視点と、空間に馴染ませたいユーザー視点の間で、どうバランスを取り形にしたのかを伝えたいと思いました。掃除機では、最終製品からは見えない変遷や思考の過程を、複数のプロトタイプを並べることで見て感じてもらえるようにしました。構造やコンセプトを考える段階からデザイナーが深く関わり、技術者と何度も何度も話し合いながら形をつくっていく。そのプロセス自体を見てもらいたかったので。

ドライヤーの展示の様子。4つの吹き出し口という技術的な特長を、暮らしに馴染む形に落とし込むまでの検討過程を見せた

複数のプロトタイプを並べた掃除機の展示と、デザイナーの岩井さん

 

大野:トースターは、見た目の「かわいい」「親しみやすい」「シンプル」という印象だけでなく、なぜそういう形になっているのか、その理由を伝えたいと思いました。覗き込みたくなるような窓の形や、ハの字の脚には、トースターと使う人との関係を近づけたいという意図があります。展示物の選定にあたっては、多くのプロトタイプの中でも変化が伝わりやすいものを選び、キャプションでは専門的な言葉を噛み砕き、来場者が共感しやすい表現にするよう工夫しました。

トースターの窓を覗き込む姿勢を再現する、デザイナーの大野さん

 

五味:テレビは、どれも同じように見えるかもしれませんが、実は細部にまでこだわってデザインしています。特に、映像への没入感や空間との調和を実現しながら、音の良さを両立する工夫を伝えたいと思いました。ミニマムなフレーム表現のためスピーカーをあえて隠しているのですが、隠すと音響性能もデザインの工夫も伝わりにくい。展示では、人型のパネルに合わせてしゃがみ込んだり、スマートフォンのライトで細部を照らしながら見てくださる方もいて、デザイン検討の際に自分たちが一生懸命見ていた視点を体験いただけたようで嬉しかったです。

しゃがみ込んで展示を見る来場者

 

川口:洗濯機では、形だけでなく、材質や構造、暮らしにフィットする在り様をどう伝えるかで悩みました。プロトタイプを複数並べて変化を見せることができなかったので、完成品一台で表現するために、小さな壁を立てランドリー空間での佇まいを再現しました。キャプションと来場者の想像力に委ねる部分が大きく、楽しい展示になるだろうかと不安に思っていましたが、実際に来場者と接してみると、細かな工夫にも興味を持って聞いてくださり、こうしたことも伝わるんだ、伝えていいんだと知りました。

普段のデザイン検討の様子を再現するデザイナーの川口さん

文章とともに、来場者に丁寧に伝えることを意識した

“まなざし”を体験として届けるコミュニケーションデザイン

展示全体のコミュニケーションデザインでは、何を大切にしましたか

荒木:「まなざし」には、実際に目線を合わせるという意味と、デザイナーの考え方や視点という意味があります。その二つをあらゆる接点で感じられるように設計しました。ポスターやフライヤーを制作するだけでなく、来場者が会場に入る前に何に惹かれるか、会場の中をどう歩くか、キャプションなどを読んでどう感じるか、体験全体を設計する意識で関わりました。

吉川:例えばフライヤーや会場入り口のグラフィックで説明しすぎてしまうと、展示を見たいという気持ちが削がれてしまうと考え、あえて情報を出しすぎず、少し余白を残すようにしました。
また、「シャープデザインらしいプロフェッショナルな印象」と、「誰でも入れる開かれた展示会場の雰囲気」との両立は、最後まで苦戦しながら取り組んだポイントです。ビジュアルデザインはもちろん言葉のデザインについても、新入社員の自分が読んで難しく感じる言葉には印をつけ、来場者との心の距離が生まれないように修正しました。ノベルティとして制作したステッカーやワッペンが、来場者とのコミュニケーションを生み、会場全体を明るくできていたのも嬉しかったです。

コミュニケーションデザイン担当の荒木さん(左)と吉川さん(右)。キャプションなど細部の表現まで丁寧に取り組んだ

展示会場全体の様子。来場者の動きや心情をイメージして設計

来場者の反応が、自分たちの強みを気づかせてくれた

展示してみて、来場者の反応からどんな発見がありましたか

大野:開催前は、デザインの専門的な展示にどこまで興味を持ってもらえるか心配でしたが、「そんなところまでデザインしていたんですね」と熱心に話を聞いてくださる方が多く、意図が伝わっている手応えがありました。トースターの窓を覗き込むわくわくする感覚や、相棒のように感じてもらいたいという思いに共感していただけたことも印象的でした。デザインを切り口にした展示でしたが、製品の背後には技術者や企画、営業など多くの人たちの熱量があります。その一部を、来場者に直接感じてもらえたのではないかと思います。

会期中は、来場者とも積極的にコミュニケーションをとった

 

岩井:強く印象に残っているのは、初日にお母さんと一緒に来てくれた少年が、すごく嬉しそうに掃除機を動かしている動画です。当日会場にいたメンバーが、ご家族の了承を得てその様子を共有してくれました。開発チームと一緒に見ながら、展示も製品もこだわって良かったねと盛り上がりました。白物家電は家の中で使われるものなので、実際に使われている様子を見る機会が少ないんです。だからこそ、届けるべきユーザーを実感できたことは大きい。今回の展示で「シャープはデザインもいいんだね」と言ってもらえたり、自分たちのデザインが売り上げだけでなく、ブランド力向上にも貢献できるのだと再認識できたことに価値があると思いました。

川口:在廊中に、「シャープが最近何を作っているか、あまり注目していなかったけど、面白いことをやっているんですね」と声をかけてくださった方がいました。単に製品を説明するのではなく、デザイナーの視点や試行錯誤を伝えることで、ブランドへの印象そのものが変わっていくようでした。これまで、わざわざ言わなくてもいいかと躊躇していたこと、どんなところにこだわって、どういう熱意を持ってデザインしているのかは、お客様に対しても、社内で一緒に開発するメンバーに対しても、しっかり伝えていくことが誠意なのだと感じました。

デザイナーの視点やものづくりの試行錯誤を丁寧に伝えることで、来場者の意識にも変化が見られた

 

五味:テレビは、あまりデザインするところがないと思われがちな製品ですが、スピーカーを見えなくするための工夫、フレームの素材や仕上げがもたらすリビング空間への影響などのこだわりを説明すると、「なるほど、そうだったんですね」と反応が変わることがありました。「テレビのフレームをシルバーにしてくれてありがとう、握手したい」という投稿があったのもとても嬉しかったです。見えない努力に光を当てる場になったと思います。

五味さん。来場者の反応から、デザインの工夫がユーザーに伝わっていることを実感

 

荒木:来場者が展示を見た感想に「まなざし」というワードをあげてくれるくらい、展示全体を「まなざし」に紐づけて設計していたので、実際に「デザイナーのまなざしが製品の新たな魅力につながった」という声が聞けてほっとしました。社内では当たり前に感じていた、試作を重ねて形にしていく姿勢が強みとして伝わるのだと実感しました。

吉川:来場者の方から、自分の家で使っている家電なのに見方が変わったと言っていただけたことが嬉しかったです。展示会の帰りに家電量販店に行って見てみます、店での見方も変わりそうです、と言ってくださる方もいて、お客様の日常に少し変化をもたらすことができたのかなと、どきどきしました。

 

五味さんは、展示を主導するチーム側でもあったわけですが、いかがでしたか

五味:ひとことで言うと、シャープデザインの可能性を感じた展示でした。最初は、本当にできるのかという思いもありました。30年以上、デザイン部門で展示会をしていませんでしたし、人も時間も十分にあるわけではない。他社の展示を見て、いいなと思うだけ。そこからのスタートでした。
でも、古井さんの熱量と共に動き出してみると、自然と同じように熱量を持つ人たちが集まってきた。皆忙しい中でも前のめりで、進めていくうちに、それぞれに「伝えたい」という想いがあると分かってきた。最終的に、大きな熱量を感じられる場になったことが嬉しかったです。

私たちは今回の展示を通じ、日々向き合い試行錯誤する過程が、見る人の心を動かす力になると実感しました。来場者の反応は、製品の背後にある思考や姿勢を丁寧に伝えることの意味をあらためて気づかせてくれました。シャープのデザイナー、そして開発に関わるメンバーは、これからも日々、ひとや社会に寄り添いながら、まだ言葉になっていない課題を丁寧に拾いあげ、新しい暮らしを提案していく。今回はその意義を、デザイナー自身が再認識する機会にもなったようです。

 

インタビュアー/松岡慶子
デザイン部門の組織デザイン担当。シャープデザインの新ステートメントや行動原則の策定、デザイン部門サイト構築に携わる。

 

シャープ公式note
テレビの画面「以外」も見てほしいデザイナーの奮闘記

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