シャープデザインのまなざし展|一人のデザイナーの課題意識が生んだ発信の場
シャープデザインの考え方やものづくりの姿勢を、体験として伝える場として開催された「シャープデザインのまなざし展」。その企画を立ち上げ、中心となって推進したのが、デザイナーの古井翔真さんです。展示に込めた課題意識、実現までの試行錯誤、そして来場者の反応から見えてきたことを聞きました。
古井 翔真 Shoma Furui
名古屋市立大学でプロダクトデザインを学んだ後、2020年にシャープへ新卒入社。複合機、物流ロボット、スマートフォンなどのプロダクトデザインに携わり、現在はテレビのデザインを担当している。
展示参加デザイナー6名のインタビュー記事はこちら
シャープデザインのまなざし展|デザイナーの“まなざし”を伝えることで生まれた、発見と共感
もともと持っていた課題意識を、展示に
今回の展示を企画しようと思ったきっかけを教えてください
もともと、シャープはもっとデザインや文化的な活動を社外に発信できる会社だと思っていました。製品や技術はもちろん大切ですが、それだけではなく、社会に対してどのような視点を持ち、どのような考え方でものづくりに向き合っているのかを伝えることにも価値があると感じていました。
きっかけの一つは、以前、個人で参加した展示です。そのメンバーの中には、会社として参加した人も大勢いて、企業が事業目的のみではなく社会に向けて発信することの意味を考えるようになりました。多くの人に知っていただいているメーカーであるシャープが、デザインという立場から文化的な発信をすることには、きっと価値がある。そういう思いが自分の中に芽生え始めました。
もうひとつのきっかけは、スマートフォンの記者発表会で、デザインブースを通じてブランドを伝える場に携わったことです。そこで、展示という手法でデザインやブランドの価値を伝えることができると気づきました。2026年1月に、ちょうどテレビのAQUOSが25周年というタイミングもあり、最初はAQUOSを軸にした展示を考え始めました。
実現するために、行動し、想いを伝え続ける
企画から開催までの間で、特に大変だったことは何でしたか
最初は、企画書を握りしめ同じチームの上司に提案するところからスタートしました。当たり前ですが、展示をやりたいと思っていても、じっと待っているだけでは「展示をしてください」という仕事はきません。大学時代の後輩の会社が偶然、今回の展示会場になったGOOD DESIGN Marunouchiで展示をしていて、それを見に行ったことが大きな転機になりました。
後輩にこの会場の客層や見込める来場人数、予算や運営面のことを聞き、自分が考えている企画にマッチすると思いました。特に予算や会期中の運営面のことは企画を進めるうえでハードルになると考えていたので、だからこそ、「この条件ならできるかもしれない」と思えたことは大きかったです。
一方で、企画の軸は途中で大きく変わりました。当初はAQUOSという特定の商品ブランドにフォーカスする展示を考えていました。ただ、関係者と話す中で、自分では気づけていなかった視点から鋭い指摘をもらったり、なかなか一筋縄ではいきませんでした。そこで一度立ち止まり、何を見せる展示なのかを改めて考え直すことになりました。
結果として、特定の商品ブランドではなく、シャープデザイン全体の姿勢を伝える展示へと方向修正しました。展示そのものが目的になってはいけない、という意識を持ちつつも、同時に、動き始めたこのプロジェクトを止めたくないという思いがありました。もちろん自分が当初抱いていた課題意識を貫くことは大切にしながら、社内外の意見を聞き、企画の形を変え、関わってくれる人を増やし、少しずつ実現に近づけていきました。これは社内の人に言われたことなんですが「古井くんの想いみたいなものは、消さないほうがいいよ」と。論理的な説明はもちろん必要ですが、それだけではなくて、自分が抱いている課題感を、事あるごとに色んな人に伝えるようにしていました。

展示の企画意図を、各製品のデザイナーにも想いを持って伝えていった
“デザイナーの見方”を体験してもらう
展示内容を考える上で、大切にしたポイントは何ですか
製品の魅力を伝えるとき、どうしても機能やスペック、数字の話になりがちです。でも、デザインの仕事はそれだけでは説明できません。使う人の生活をどう見ているのか、どんな違和感に気づき、どのような造形や体験につなげているのか。この展示で伝えたかったのは、そうしたデザイナーの“まなざし”でした。
展示内容を考えるために、まず世の中の様々な展示を分析しました。新作を発表する展示、有名な作品を見る展示、知識欲を刺激する展示、身体を使って楽しむ体験型の展示などを見比べ、必要な要素を整理していきました。そして今回の展示では、来場者が「知りたい」と思い、そして実際に体験できることが重要だという考えに至りました。
具体的には、テレビのデザイナーがデザインを検討している際に製品を見る姿勢に着目しました。真正面からだけ見るのではなく、裏側をのぞいたり、しゃがんでスピーカーやスタンドを確認したりする。普通、家電量販店ではなかなかしない見方ですが、デザイナーはそうした細部から、使われ方や構造、佇まいを見ています。来場者にもその“デザイナーの視点”を体験してもらうため、ヒト型パネルを使って見方を自然に促す構成を考えました。
ビジュアル面でも試行錯誤がありました。一般の人にも来てほしかったので、いかにも電機メーカーの展示という見え方ではなく、もっと開かれた、親しみやすい印象にしたいと考えていました。一方で、シャープデザインとして発信する以上、サイトなどのブランド全体のトーンとの整合も必要です。社内のコミュニケーションデザインチームのメンバーと共創しながら、展示の意図と見た目がつながる表現を探っていきました。


ヒト型パネルを用いた、デザイナーの視点を体験してもらう仕掛け
外からの反応が、自分たちの強みに気づくきっかけに
実際に開催してみて、来場者の反応から感じたことはありますか
印象的だったのは、他社のデザイナーやデザイン責任者の方から、こうした発信を企業として行うこと自体がすごい、という反応をもらったことです。中には複数回見に来てくださった方もいました。展示を通して、シャープがデザインを深く考えている会社だと受け取ってもらえたことは、大きな手応えでした。
来場者の反応から、改めてシャープの強みも見えてきました。たとえば、製品開発の中で多くのプロトタイプをつくり、技術者と議論しながら形にしていくこと。社内では当たり前のように行っていたことが、外から見ると大きな特徴なのだと気づきました。また、展示の製品に対して「どこかかわいげがある」「シンプルだけれど面白い」といった声がいくつも聞かれたことも印象に残っていて、「シャープらしさ」が来場者やお客様にも伝わっているのかなと感じました。
今回の展示は、社外に向けた発信でした。ですが同時に、外からの反応を通じて自分たちの現在地を知る機会にもなりました。アウトプットすることで、多くのインプットが返ってくる。その循環を実感できたことは、今後の製品開発やデザイン活動にもつながっていくと思います。

来場者とも積極的に交流した
展示を終えて、今回の展示は自分が入社してから積み重ねてきた課題意識や社外活動で得た経験を、一度見える形にしたものだったと感じています。今後は、今回得た気づきを本業の製品デザイン開発にも還元していきたい。自分の活動で、シャープのデザイナーや一緒に働くみんな、関わる人たちに対して、プラスの影響を与えていきたいなと思っています。

インタビュアー/松岡 慶子
デザイン部門の組織デザイン担当。シャープデザインの新ステートメントや行動原則の策定、デザイン部門サイト構築に携わる。
シャープ公式note
テレビの画面「以外」も見てほしいデザイナーの奮闘記